「離婚をしたいけれど、相手が親権は譲らないと言っている。」
「別居をしようと思っているが、子どもは連れて行ってもいいのか。」
「相手が子どもを連れ去ってしまったので、取り戻したい。」
子どもの親権者をどうするかは、離婚で最も激しく対立することの多い問題です。
こんにちは。
東京都の杉並区で「杉並永福法律事務所」を開設しております弁護士の小松峻也と申します。
この記事では、親権に関する問題でお悩みの方に向けて、親権の基本的な考え方についてお話しいたします。
目次
1 親権とは
親権とは、未成年(18歳未満)の子どもの世話・教育を行い、子どもの財産管理を行うために、父母に認められる権利及び義務をいいます(民法820条、824条)。
2 離婚と親権
婚姻中の父母は、子どもの共同親権者であり、共同で親権を行使します(民法818条)。
しかし、父母が離婚をした場合には、父母のいずれかが単独親権者となります(民法819条1項、2項)。
3 親権と監護権の分離
親権の内容は、
- 子どもに対する監護教育の権利義務
- 子どもの財産上の管理処分の権利義務
に分かれています。
このうち、1を特に監護権といいます。
父母が離婚をした場合には、どちらかが単独親権者となりますが、このとき、親権者と監護権者を分けることもできます。
もっとも、子どもの福祉(利益)の観点からすると、原則として、親権者と監護権者は一致させることが望ましいと考えられます。
そのため、調停や裁判(審判)においては、親権者と監護権者を分けるべき特段の事情がある場合に限り、例外的に親権者の分離が認められることもあるという程度に考えておくべきでしょう。
*例えば、子どもの監護教育は母に任せることが望ましいが、母に浪費癖が見られるため、子どもの財産上の管理処分の権利義務は父に任せた方がよいといった場合が考えられます。
4 親権者の決め方
協議離婚の場合には、夫婦間の話し合いで子どもの親権者を決めます。
夫婦間の話し合いがまとまらなかった場合には、調停や裁判で親権者を決めていくことになります。
5 親権者の適格性
夫婦間の話し合いがまとまらなければ、最終的に、裁判所が、どちらが子どもの親権者としてふさわしいか(これを「親権者の適格性」といいます。)を判断し、父母の一方を子どもの親権者として指定します。
親権者の適格性は、「子どもの福祉(利益)」の観点から判断されます。
その判断にあたっては、父母の事情が総合的に考慮されることになりますが、大きなポイントとして、以下のような項目が挙げられます。
(1) 監護の継続性
子どもの監護者が変更されることに伴う生活環境の変化は、子どもにとって大きな精神的負担となります。
そのため、現在の監護養育状況及び生活環境が安定して継続しているときには、その事情は、親権者の指定に際して重視されます。
(2) 子どもの意思
親権者の指定に際しては、子ども自身の意思も重要な考慮要素となります。
家庭裁判所は、子どもが満15歳以上である場合には、子どもの親権者の指定や変更の審判をする際に、子どもの陳述を聞かなければなりません(家事事件手続法169条2項)。
調停の場合でも、子どもの意思は考慮されます(家事事件手続法258条1項、65条)。
また、子どもの年齢が15歳以下であっても、概ね10歳前後になっていれば自分の意思を伝えることができると考えられ、実務的には、親権者を指定する前に、裁判所が子どもの意向を確認するのが通常です。
子どもがさらに小さい場合には、自分の意思を伝える能力が十分でないと考えられますが、一般論として、家庭裁判所の裁判官は、子どもの気持ちに関心を持っています。
正面から子どもにその考えを尋ねることはなくとも、家庭裁判所の調査官による家庭訪問等の際に、子どもの様子には気を配っているようです。
(3) きょうだいの不分離
*ここでは、兄弟姉妹をまとめて「きょうだい」と記載します。
一緒に育ってきたきょうだいは、精神的なつながりが強いため、親権者の指定に際して、可能な限りこれを分離しないように配慮されます。
もっとも、きょうだいの不分離は絶対の原則ではありません。
個別の状況次第では、きょうだいの親権者が別々となることもあり得ます。
(4) 面会交流に関する意向
親権者とならなかった父母も、子どもの父母であることには変わりありません。
親権者でない父母との面会交流は、子どもの健全な成長にとって重要です。
そのため、父母の一方が面会交流に積極的であり、他方が消極的であるような場合には、このような面会交流に関する意向は、親権者の指定に際して考慮されます。
しかし、面会交流に関する意向は、親権者の指定に関して決定的な考慮要素というわけではなく、例えば、父母の一方が面会交流の実施を拒否しているとしても、それだけで親権者として不適格と判断されるわけではありません。
(5) 監護開始の態様
父母の一方が子どもを監護している状況において、他方が実力を行使して子どもを連れ去って監護を開始した場合や、面会交流の約束に違反して、子どもを返すことなく監護を開始した場合等、不適切な手段で監護が開始されたことは、親権者の指定に際してマイナスの事情として考慮されます。
(6) 不貞の存在
父母の一方から相手の不貞が主張される場合、“不貞を行う親”は親権者として不適格であるとの主張が合わせてなされることがあります。
この点、不貞が事実であったとしても、それだけで直ちに親権者として不適格と判断されるわけではありません。
とは言え、不貞が子どもの養育に影響を及ぼしていた場合には、親権者の指定に際してマイナスの事情として考慮されます。
例えば、不貞相手との交際のために、育児が十分に行われていなかった場合や、不貞相手が自宅に度々来訪し、それが子どもの精神的負担となっていた場合には、親権者の指定に際して考慮され得るでしょう。
(7) 小括
以上、判断の際にポイントとなる点を挙げましたが、上記のポイント以外の事情も全て総合的に考慮して、父母のどちらを親権者に指定する方が子どもの福祉(利益)に適うのかという観点から、子どもの親権者が指定されます。
6 子どもの連れ去り
親権者の指定に際して「監護の継続性」が重視されるとすると、子どもの親権者になることを希望する父母が、監護実績の獲得を目的として、子どもを自己の独占的な監護下に置くことを画策することがあります。
これが子どもの連れ去りの問題です。
(1) 子どもの連れ去りに関する裁判例
この点に関し、別居状態にある父が、母のもとから違法に子を奪取して監護を開始した場合に関する裁判例があります。
この事件の概要は以下のとおりです。
父母の夫婦関係が不仲となり、母が子ども連れて別居を開始しました。
父が母を相手に夫婦関係調整調停の申立てを行い、この調停において、父は、調停委員から自力救済(子どもを実力で取り返すこと)をしてはいけないと指導を受けていました。
しかし、父は、ある朝、子どもが幼稚園へのバスを待っていたところを、父側の親族とともに車で待ち伏せし、子どもを強引に抱きかかえて奪取しました。
この状況を前提に、父母の双方から監護者指定の申立てが行われました。
*「親権者」の指定は、離婚に伴って行われます。
まだ離婚していない別居中の夫婦について、どちらが子どもを監護するかの判断を求める場合、監護者指定の申立てを行います。
一審の裁判所は、父による子どもの奪取行為が違法であることを認めつつ、これを子どもの福祉(利益)を判断する上で必要な諸事情の中の一要素として考慮すべきであるとし、結論として、父を監護者に指定しました。
この判断に対し、母が即時抗告をしました。
母からの即時抗告を受けて、東京高等裁判所は次のように判断して、一審の判断を覆しました。
調停委員等からの事前の警告に反して周到な計画の下に行われた子の奪取は、極めて違法性の高い行為であり、子の監護者を奪取者に指定することは、そのような違法行為をあたかも追認することになるのであるから、そのようなことが許される場合は、特にそれをしなければ子の福祉が害されることが明らかといえるような特段の状況が認められる場合に限られる。
東京高等裁判所平成17年6月28日決定
このように、違法な子どもの連れ去りによって監護が開始された場合には、その事実は、監護者(親権者)の指定に際し、マイナスの事情として大きく考慮されることになります。
(2) 子連れ別居
子どもの連れ去りと似て非なるものとして、子連れ別居があります。
例えば、上記裁判例の事案でも、まず、母が子どもを連れて別居を開始しています。
このような子連れ別居については、どのように考えるべきでしょうか。
例えば、父が会社員、母が専業主婦であり、子どもの監護養育は専ら母が行ってきたという場合を想定すると、母による子連れ別居は、従前から行われてきた監護を継続するために必要な行為として、正当化され得ると考えられます。
上記裁判例も、母が主として子どもの養育に当たっていたと認定したうえで、母による子連れ別居について、次のように判断しています。
また、抗告人(母)による本件別居を明らかに不当とするまでの事情は見当たらないから、事件本人(子ども)の年齢やそれまでの監護状況に照らせば、抗告人(母)が別居とともに事件本人(子ども)を同行することはやむを得ないものであり、これを違法又は不当とする合理的根拠はないといわざるを得ない。そうすると、このような経緯で事件本人(子ども)の監護養育状況が抗告人(母)側にゆだねられることになったことが事件本人(子ども)の福祉を害するということはできない。
東京高等裁判所平成17年6月28日決定
もっとも、最近では、父母が共働きで、育児についても同程度に関与しているという家庭も増えています。
こういった家庭において、父母の一方が子どもを連れて別居をした場合、それをどう評価するかは、非常に難しい問題です。
親権者は、子どもの福祉(利益)の観点から判断されます。
そうである以上、監護開始の態様(子連れ別居やそれに至るまでの経緯・事情)と、その後の監護の継続の両方を考慮要素とし、その他の事情も総合考慮したうえで、具体的な事案において、父母のいずれを親権者に指定するのが子どもの福祉(利益)に適うのかを判断することになるでしょう。
(3) 子どもの引渡し
違法に連れ去られた等の事情によって一方の親の監護下にある子どもについて、その引渡しを求める方法としては、主として、以下の2つがあります。
- 子の監護者指定の審判、子の引渡しの審判、審判前の保全処分の申立て
- 人身保護法に基づく人身保護請求
前者の「子の監護者の指定の審判、子の引渡しの審判、審判前の保全処分の申立て」を行うのが一般的な方法です。
人身保護法に基づく人身保護請求は例外的な場合(子の引渡しの審判後、強制執行が奏功せず、そのままでは引渡しが実現できない場合等)に検討するのがよいと思います。
子どもが違法に連れ去られた場合、直ちに子どもの引渡しを求めなければ、連れ去りを行った親のもとで監護実績が積み重ねられていくことになります。
そのため、こういった場合には、すぐに弁護士に相談すべきです。
7 離婚後の親権者変更
離婚後に子どもの親権者を変更することも可能です。
ただし、夫婦間の協議だけで変更できるわけではなく、家庭裁判所に対し、調停又は審判の申立てを行うことが必要です(民法819条6項)。
また、親権者の変更に父母が同意している場合はともかく、親権者である父又は母が、親権者の変更を争っている場合には、親権者の変更を実現するためのハードルはかなり高いと言えます。
なぜなら、一度、両者の合意又は裁判所の判断によって父母の一方が子どもの親権者となり、以降、親権者のもとで子どもの監護が継続している状況にあるため、それを考慮しても親権者を変えなければならない事情がない限りは、現在の状況を維持するのが子どもの福祉(利益)に適うと考えられるためです。
なかには、離婚を急ぐあまり、親権者はひとまず父母の一方に定めて離婚届を提出し、その後、親権者を最終的にどちらにするか、父母の間でゆっくり話し合えばいいと考える方もいらっしゃいます。
しかし、父母のいずれか一方を親権者と定めて離婚届を提出してしまうと、その後は、離婚後の親権者の変更の問題になってしまいます。
そのため、子どもの親権者になることを考えているのであれば、”離婚届上はとりあえず相手を親権者にする”といった対応は取るべきではありません。
8 杉並永福法律事務所へのご相談
子どもの親権者の指定は、離婚の中でも最も激しく対立することが多い問題です。
場合によっては、子どもの連れ去りという事態が発生することもあるため、ご不安があれば、弁護士への相談が望まれます。
杉並永福法律事務所では、親権者の問題を含め、離婚に関するご相談に随時ご対応しております。
もし親権者に関する問題でお悩みであれば、ぜひ当事務所宛にお電話又はメールにてご連絡ください。
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