賃料不払いを理由とする建物明渡し請求では、送付された通知書や裁判に賃借人が誠実に対応しないケースも少なくありません。
本記事では、そのような事例についてご紹介いたします。
なお、個人情報保護のため、一部事実を変更しております。
また、本記事の掲載については、ご依頼者様から事前にご了承をいただいております。
目次
1 事案の概要
物件:東京都23区内の戸建て
使用目的:住居
賃料滞納:約4ヶ月分
2 解決までの流れ
(1) 明渡しを求める通知書の送付
物件の管理会社のご紹介でオーナー様からご依頼をいただきました。
事実関係を確認した後、賃借人宛に「2週間以内に滞納賃料を支払わなければ賃貸借契約を解除する」と通知する書面を、内容証明郵便及びレターパックライトの2種類の方法で送付しました。
内容証明郵便は、受取人が不在の場合、不在通知が郵便受けに残されますが、これに受取人が対応しないと返送されてしまいます。
本件では、賃借人が対応しない可能性を考慮し、同内容の通知書をレターパックライトでも送付しました。
レターパックライトは、受取人の郵便受けに直接投函され、手渡しを要しません。
また、追跡サービスで配達状況を確認することが可能です。
結果として、内容証明郵便は受取人不在・保管期間経過を理由に返送されましたが、レターパックライトで送付した通知書は、賃借人に無事到達しました。
(2) 賃借人からの電話連絡
支払期限の数日前に賃借人から電話が入りました。
賃借人は、近く収入が得られる見込みがあるため、2ヶ月後に滞納賃料の全額を支払うと約束しました。
しかし、その収入見込みは不確かで信頼性に欠けていたため、賃借人の言い分を信じることは出来ませんでした。
(3) 明渡請求訴訟
ご依頼者様と協議した結果、通知書の到達から2週間の経過をもって賃貸借契約が解除されたことを前提に、賃借人に対し、1ヶ月の猶予期間を与えたうえで本件建物からの退去を求める通知書を送付しました。
賃借人が対応しないことが予想されたため、この1か月間に訴訟の準備を進め、猶予期間経過後、東京地方裁判所に建物明渡請求訴訟を提起いたしました。
訴状の提出から約1ヶ月後に、第1回口頭弁論期日が指定されました。
第1回口頭弁論期日当日、被告(賃借人)は、答弁書を提出せず、裁判にも欠席したため、同期日で審理終了となりました。
1週間後、原告の請求が全て認められる形で勝訴判決が下され、約2週間後に判決が確定しました。
(4) 強制執行の申立て
原告の勝訴判決が確定したにもかかわらず、賃借人は依然として本件建物に住み続けていました。
この状況を受け、東京地方裁判所の執行官室に、強制執行の申立てを行い、申立ての約1ヶ月後に、明渡しの催告が実施されることになりました。
明渡しの催告を効果的に行うため、賃借人に対し、催告日に在宅するよう求める書面を事前に送付しました。
(5) 明渡しの催告
明渡しの催告の当日、賃借人の妻が在宅をしていました。
賃借人の妻から、転居先が決まったことを聞き、執行官とともに建物内部を確認したところ、大部分の荷物が既に運び出されていました。
そのため、強制執行手続としての明渡しの断行日を約1ヶ月後に指定し、断行日の前に、任意の明渡しを受ける方針としました。
(6) 任意の明渡し
賃借人と日程を調整し、明渡しの断行日の約1週間前に任意の明渡しを受けました。
この際、賃借人との間で明渡し確認書を取り交わし、同行していた鍵業者により建物の鍵が交換されました。これにより、明渡しは正式に完了しました。
(7) 強制執行の取下げ
任意の明渡しが成功したため、強制執行の申立てを取り下げ、事件終了となりました。
*強制執行の申立ての取下げ方法について*
「債務者が任意の明渡しを行ったため、債権者は申立てを取り下げます。」と記載した取下書を、東京地方裁判所の執行官室宛に郵送し、取下げをいたしました。
なお、この申立てに伴う予納金は6万50000円で、取下げ後に約4万円が返金されました。また、明渡しの催告に同行した執行補助者の日当は3万円でした。
ちなみに、明渡しの断行に至っていた場合の見積額は約25万円でしたので、任意の明渡しに成功したことで費用を節約することができました。
3 まとめ
本件では、「賃借人は逃げ回る性格であり建設的な話し合いは困難である」という事前情報があったため、早期に裁判・強制執行の申立てを行いました。それでも、ご依頼から事件解決までに約6ヶ月を要しました。
強制執行の申立てまで行うと、それまで逃げ回っていた賃借人も自ら退去することが少なくありません。
私が携わった他のケースでも、同様に、強制執行の申立てを契機に任意の明渡しが行われました。
このように、賃料を滞納している賃借人が逃げ回っているケースでは、早期に裁判・強制執行の申立てを検討することをお勧めします。
お困りであれば、ぜひご相談ください。